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労働基準法(6)-11

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判例チェック

 

◇時季変更権vs他の事業場の争議行為◇

 


他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加したか否かは、なんら当該年次休暇の成否に影響するところはない

 

↓ これは…

 

年次有給休暇の権利を取得した労働者が、その有する休暇日数の範囲内で休暇の時季指定をしたときは、使用者による適法な時季変更権の行使がない限り、指定された時季に年次休暇が成立するのであり、労働基準法39条5項但し書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものであるからである

(白石営林署事件・昭48.3.2最高裁第2小)。(平14択)(平19択)

 

 

◇時季変更権vs年休闘争◇

 


争議行為に参加しその所属する事業場である津田沼電車区の正常な業務の運営を阻害する目的をもって、たまたま先にした年次休暇の請求を当局側が事実上承認しているのを幸い、この請求を維持し、職場を離脱したものであって、このような職場離脱は、労働基準法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提としてその枠内で休暇を認めるという年次有給休暇制度の趣旨に反するものというべく、本来の年次休暇権の行使とはいえないから、労働者の請求に係る時季指定日に年次休暇は成立しないというべきである。(平22択)
したがって、年休取得日における自己の事業場での争議行為に積極的に参加した場合は、結果的には時季指定の事後に設定された争議であって、労働組合の指令に基づく参加ではない場合であったとしても、正当な時季指定権の行使とは認められない(国鉄津田沼電車区事件・平3.11.19最高裁第3小)。

 

 

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◇時季変更権vs代替勤務者の配置◇

 


労働基準法39条5項但し書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。

 

↓ したがって…

 

そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。

 

↓ そして…

 

年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであるから、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく許されないものであり、このような場合の時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない

(弘前電報電話局事件・昭62.7.10最高裁第2小)。(平20択)

 

 

◇時季変更権vs近接した時季指定◇

 


労働者の年次有給休暇の請求に対する使用者の時季変更権の行使が、労働者の指定した休暇期間が開始し又は経過した後にされた場合であっても、労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、それが事前にされなかったことのゆえに直ちに時季変更権の行使が不適法となるものではなく、客観的に時季変更権を行使しうる事由が存し、かつ、その行使が遅延なくされたものである場合には、適法な時季変更権の行使があったものとしてその効力を認めるのが相当である(電電公社此花電報電話局事件・昭57.3.18最高裁第1小)。

 

 

◇時季変更権(裁量的判断)vs連続長期年休◇

 


□通信社の記者が始期と終期を特定して休日等を含め約1箇月の長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をしたのに対し使用者が休暇の後半部分についてした時季変更権の行使が適法とされた事件。

 

↓ 判決では…

 

労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それが長期のものであればあるほど、使用者において代替勤務者を確保することの困難さが増大するなど事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くなり、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ずるのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季指定をした時点において、その長期休暇期間中の当該労働者の所属する事業場において予想される業務量の程度、代替勤務者確保の可能性の有無、同じ時季に休暇を指定する他の労働者の人数等の事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働者が、右の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対する使用者の時季変更権の行使については、右休暇が事業運営にどのような支障をもたらすか、右休暇の時期、期間につきどの程度の修正、変更を行うかに関し、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ない。もとより、使用者の時季変更権の行使に関する右裁量的判断は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法39条の趣旨に沿う、合理的なものでなければならないのであって、右裁量的判断が、同条の趣旨に反し、使用者が労働者に休暇を取得させるための状況に応じた配慮を欠くなど不合理であると認められるときは、同条3項ただし書所定の時季変更権行使の要件を欠くものとして、その行使を違法と判断すべきである

(時事通信社事件・平4.6.23最高裁第3小)。(平22選)