前のページへ | 次のページへ | 目次へ

労働基準法(5)-9

仮画像

テキスト本文の開始

 

 

 

-----------------(153ページ目ここから)------------------

 

8  割増賃金-2 (法37条1項但し書)                     重要度 ●   

 

条文

 


当該延長して労働させた時間が1箇月*1について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働*2については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

 

 

outline

 

◆規定の概要

 


a) 1箇月について60時間を超えて時間外労働をさせた場合には、その超えた時間外労働について、法定割増賃金率を「2割5分以上」から「5割以上」に引き上げる(法37条1項但し書)。

 

b) 労使協定を締結し、労働者が希望したときは、a)の金銭補償に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇の付与による補償を行うことができる。→「代替休暇制度」の導入(法37条3項)

 

c) 中小事業主*3については、当分の間、上記a)及びb)の規定は、その適用が猶予される(法附則138条)。

 

 

ここをチェック

 

□*1「1箇月」とは、暦による1箇月をいい、その起算日は、就業規則に記載すべき「賃金の決定、計算及び支払の方法」にあたる。

 

□*2「その超えた時間の労働」とは、1箇月の起算日から時間外労働時間を累計して60時間に達した時点より後に行われた時間外労働をいう

(平21.5.29基発0529001号)。

 

↓ 具体的には…

 

 

ちょっとアドバイス

 

□法定休日以外の休日(所定休日)における労働が「時間外労働」に該当する場合には、「1箇月について60時間」の算定対象に含めなければならない

(平21.5.29基発0529001号)。

(*法定休日における労働時間は含める必要はない

 

 

-----------------(154ページ目ここから)------------------

 

advance

 

□*3「中小事業主」の範囲は、次のとおりである

(平21.5.29基発0529001号)。

 


業種

 

資本金の額又は出資総額

 

常時使用する労働者数

 

 

イ) 小売業

 

5,000万円以下

 

 50人以下

 

 

ロ) サービス業

 

5,000万円以下

 

100人以下

 

 

ハ) 卸売業

   

1億円以下

 

100人以下

 

 

ニ) その他

   

3億円以下

 

300人以下

 

      

  ↓ なお…

 

□関連する規定は、次のとおりである(平21.5.29基発0529001号)。

 


a)「資本金の額又は出資総額」か「常時使用する労働者数」の少なくとも一方の基準を満たしていれば、中小事業主に該当する。

 

b) 中小事業主の判断は、事業場単位ではなく「企業単位」で行われる。

 

c) 労働者の数は、労働契約関係の有無によって判断される。

 

 

参考条文

 

◆検討 (平22改正法附則3条)

 


1) 政府は、この法律の施行後3年を経過した場合において、この法律による改正後の労働基準法(以下この条において「新法」という)第37条第1項ただし書及び第138条の規定の施行の状況、時間外労働の動向等を勘案し、これらの規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 

2) 政府は、前項に定めるものを除くほか、この法律の施行後5年を経過した場合において、新法の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、新法の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。

 

 

9  割増賃金-3 (代替休暇・法37条3項)                 重要度 ●   

 

条文

 


使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定*1により、第1項但し書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇第39条の規定による有給休暇を除く)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項但し書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項但し書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。

 

 

-----------------(155ページ目ここから)------------------

ここをチェック

 

□*1 代替休暇に係る労使協定で定める事項は、次のとおりである(則19条の2、平21.5.29基発0529001号)。

 


イ) 代替休暇として与えることができる時間の時間数の算定方法

 

 

□1箇月について60時間を超えて延長して労働させた時間の時間数に、労働者が代替休暇を取得しなかった場合に当該時間の労働について法37条1項但し書の規定により支払うこととされている割増賃金の率と、労働者が代替休暇を取得した場合に当該時間の労働について同項本文の規定により支払うこととされている割増賃金の率との差に相当する率(「換算率」という)を乗じるものとする。

 

↓ 具体的には…

 

 

ロ) 代替休暇の単位

 

 

□1日又は半日(代替休暇以外の通常の労働時間の賃金が支払われる休暇と合わせて与えることができる旨を定めた場合においては、当該休暇と合わせた1日又は半日)。

 

 

ハ) 代替休暇を与えることができる期間

 

 

□延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた当該1箇月の末日の翌日から2箇月以内とし、この範囲内で定める。

 

 

ニ) 代替休暇の取得日及び割増賃金の支払日

 

 

□労働者の意向を踏まえた代替休暇の取得日の決定方法であること。

 

□1箇月について60時間を超える時間外労働に係る割増賃金の支払日は、労働者に代替休暇取得の意向があるときは2割5分以上の割増賃金分について、また、取得の意向がないときは5割以上の割増賃金分について、当該賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うこと。

 

 

ちょっとアドバイス

 

□代替休暇に係る労使協定は、所轄労働基準監督署長への届出は不要である(則19条の2第1項)。

 

advance

 

□割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が不要となる時間は、取得した代替休暇の時間数を換算率で除して得た時間数の時間とする(則19条の2第3項)。

 


【事例】換算率が0.25代替休暇として与えるべき時間数が5時間であった労働者が、実際には3時間(労使協定で定めた午前中の半日)しか代替休暇が取得できなかった場合

 

 

割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払が不要となる時間数は、「3時間÷0.25=12時間」分であるから、代替休暇が取得できなかった「(5時間-3時間)÷0.25=8時間」分については、割増賃金率の引上げ分の割増賃金が必要となる。

 

 

 

-----------------(156ページ目ここから)------------------

 

◆代替休暇に係る留意点 (平21.5.29基発0529001号)

 


□代替休暇に係る労使協定は、個々の労働者に対して代替休暇の取得を義務付けるものではなく、労使協定が締結されている事業場において、個々の労働者が実際に代替休暇を取得するか否かは、労働者の意思によるものである。

 

時間単位で与えることはできないが、「時間単位年休」を活用することは差し支えない。

 

□前々月の時間外労働に対応する代替休暇と前月の時間外労働に対応する代替休暇とを合わせて1日又は半日の代替休暇として取得することもできる。

 

□「半日」とは、労働者の1日の所定労働時間の2分の1をいうものであるが、必ずしも厳密に2分の1とする必要はなく、労使協定において、当該事業場における半日の定義を定めておけばよい。

 

□代替休暇の取得の意向はあったが実際には取得できなかったときは、取得できないことが確定した賃金計算期間に係る賃金支払日に支払うことが必要となる。

 

□法定割増賃金率の引上げ分も含めた割増賃金が支払われた後に、労働者から代替休暇取得の意向があった場合には、代替休暇を与えることができる期間として労使協定で定めた期間内であっても、労働者は代替休暇を取得できないこととすることを労使協定で定めても差し支えない(反対に、代替休暇の取得を認めて、既に支払われた割増賃金を清算する定めをすることもできる)。

 

□代替休暇を取得して終日出勤しなかった日については、年次有給休暇に係る出勤率の算定基礎となる全労働日には含まれない