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労働基準法(2)-10

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テキスト本文の開始

 

 

 

7  労働契約の解除と帰郷旅費 (法15条2項・3項)       重要度 ●   

 

条文

 


2) 前項の規定によって明示された労働条件*1が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる*2。(平5択)

 

3) 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合*3においては、使用者は、必要な旅費*4を負担しなければならない。(平8記)

 

 

ここをチェック

 

□*1「明示された労働条件」とは、本条1項によって明示すべき労働条件(絶対的明示事項及び相対的明示事項)のことであり、それ以外の労働条件は含まれない

 

↓ また…

 

本条の解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。

 

□*2「解除することができる」のは、当該労働者自身に関する労働条件に限られる。したがって、労働契約の締結に当たって自己以外(第三者)の労働条件について附帯条項が明示されていた場合に、使用者がその条項に基づいた契約内容を履行しない場合であっても、労働者は本条による契約の解除をすることはできない(昭23.11.27基収3514号)。

(平12択)

 

 

(例)社宅等であって単なる福利厚生施設とされるものは、本条1項による明示すべき労働条件の範囲には含まれないから、使用者が契約締結に当たって社宅等の供与を明示しておきながら、就職後これを供与しなかったとしても、本条による解除権を行使し得ない。ただし、社宅を利用する利益が法11条にいう賃金である場合は、本条による解除権を行使し得る(昭23.11.27基収3514号)。

 

 

 

 

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□*3「帰郷」とは、通常、就業する直前に労働者の居住していた場所まで帰ることをいうが、必ずしもこれのみに限定されることなく、父母その他親族の保護を受ける場合にはその者の住所に帰る場合も含まれる(昭23.7.20基収2483号)。

 

□*4「必要な旅費」とは、帰郷するまでに通常必要とする一切の費用をいい、交通費のほか、食費、宿泊費も含まれる。また、労働者とともに、その労働者により生計を維持されている同居の親族(内縁の妻を含む)が転居する場合には、その者の旅費等も含まれる(昭22.9.13発基17号、昭23.7.20基収2483号)。

 

 

 

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※テキスト49ページ~53ページは、過去問掲載ページです。WEB上での掲載はございません

 

 

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第2節  不当な身柄拘束の禁止

 

1  賠償予定の禁止 (法16条)                           重要度 ●● 

 

条文

 


使用者は、労働契約の不履行について違約金*1を定め、又は損害賠償額を予定する契約*2をしてはならない*3。(平20択)

 

 

ここをチェック

 

□*1「違約金」とは、債務不履行(労働契約に基づく労働義務を労働者が履行しない)の場合に、損害発生の有無にかかわらず、債務者(労働者)が債権者(使用者)に支払うべきものとして、あらかじめ定められた金銭である。

 

□*2「損害賠償額を予定する」とは、損害発生の有無にかかわらず、賠償すべき一定の金額を予定することを禁止するものであって、現実に生じた損害について賠償請求をすることは、本条が禁止するところではない(昭22.9.13発基17号)。

(平4択)(平10択)(平12択)

 

□*3 「契約してはならない」とは、禁止すべき対象を労働契約に限定していないことから、親権者又は身元保証人が違約金等を負担する特約や、労働者の負担する違約金等を保障する契約等も禁止されることとなる。(平14択)

 

ちょっとアドバイス

 

□本条違反は、違約金又はあらかじめ定めた損害賠償額を現実に徴収したときではなく、使用者が労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしたときに成立する。

 

判例チェック

 

◇競業避止義務vs退職金債権◇

 


□労働者が就業規則に反して同業他社に就職した場合において、その支給すべき退職金につき、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない

 

↓ そして…

 

□この場合の退職金の定めは制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であり、法16条の規定にはなんら違反するものではない(三晃社事件・昭52.8.9最高裁第2小)。(平9択)

 

 

 

 

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2  前借金相殺の禁止 (法17条)                         重要度●   

 

条文

 

 

使用者は、前借金*1その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない*2。(平9択)(平20択)(平11記)

 

 

 

ここをチェック

 

□*1「前借金」とは、労働契約の締結の際またはその後に、労働する(つまり、将来の賃金により弁済する)ことを条件として使用者から借り入れた金銭のことである。

 

↓ したがって…

 

労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融又は賃金の前払いのような単なる弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないと認められるものは、労働することを条件とする債権ではない(昭33.2.13基発90号)。

 


□使用者が、労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合において、貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない(昭63.3.14基発150号)。

 

□住宅建設資金の貸付けに対する返済金のように融資額及び返済額ともに相当高額に上り、その返済期間が相当長期間にわたるものであっても、貸付けの原因が真に労働者の便宜のためのものであり、また、労働者の申出に基づくものであること、貸付期間は必要を満たし得る範囲であり、貸付金額も1か月の賃金又は退職金等の充当によって生活を脅威し得ない程度に返済し得るものであること、返済前であっても退職の自由が制約されていないこと等、当該貸付金が身分的拘束を伴わないことが明らかなものは、本条に抵触しない。(平14択)

 

 

□*2「相殺してはならない」とは、前借金の貸付を禁じたものではなく、賃金と前借金を相殺することを禁止している。

 

↓ また…

 

法24条の賃金一部控除協定が締結されている場合であっても、法17条の禁止する相殺をすることはできない。また、相殺の同意又は合意(相殺契約)によって相殺をすることも本条違反となる。

 

↓ なお…

 

□労働者からの相殺契約のような形式がとられていても、実質的にみて労働を強制していると認められるときは、法5条に違反する。

 

ちょっとアドバイス

 

□本条における相殺禁止の規定は、相殺のうち、使用者の側で行う場合のみを禁止しているのであって、労働者が自己の意思による申し出によって前借金等と賃金を相殺することは禁止されていない。(平3択)