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労災保険法(1)-8

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(2)「故意」の場合の可否基準

 


自己の故意

 

a) 自ら結果の発生を意図した故意による災害は、原則としてNG


b) 業務上の傷病により精神障害、心神喪失の状態に陥ったことが認められる場合にはOK(昭23.5.11基収1391号)(平13択)

 

他人の故意

 

加害行為が明らかに業務と関連しており、加害者の私怨ないし加害者との私的関係に起因しているものでない場合には、それぞれの具体的事情を考慮することによりOK(災害の原因が業務にあって、業務と災害との間に因果関係が認められる場合)

 

 

ここで具体例!

 

(1) 作業中(認められた事例)

 


O建設(株)S営業所の配管工である被災者Nは、朝6時頃から資材係、倉庫番等と協力し、前夜運搬されてきた小型パイプが同営業所資材置場に乱雑に荷下ろしされているのを整理していたが、材料が小型のため、付近の草むらに投げ込まれていないかと草むらに探しに入ったところ、この地に多く生息するハブ(毒蛇)に左足部を咬まれ負傷した(昭27.9.6基災収3026号)。 (平5択)

 

 

(2) 合理的行為中

 


事業主からの指示を受けていない行為であっても、おおむね次のような場合には、業務行為又は業務付随行為と判断されることがある。

 

 

a) 合理性又は必要性を有する行為である場合。


b) 業務と関連する突発的事情によって臨機応変に行われる緊急行為である場合。


c) 特に積極的な合理性又は必要性は認められないが、業務行為の過程において通常ありがちなささいな行為である場合。

 

 

認められた事例

 

認められなかった事例

 

 

当日午前8時、本人は製材作業を開始しようとして電動機の「スイッチ」を入れたところ、モーターが回転しない上トランスから音がしているので、修理しようとして工場敷地内にある電柱に登ったところ、前日からの雨のため、3つ目の「ダルマスイッチ」を抜こうとしたとき感電してコウ(材木の切れ端)の上に転落し1時間後に死亡したものである。なお、本人は元U木工に働いていたときにも電気設備の修理に当たっていた経験がある

(昭23.12.17基災発243号)。

 

N通運(株)O支店車両整備事務員Kは、当日、貨物自動車の車体検査受検のため自ら同車を運転して車体検査場に赴いたところ、車体検査場では、昼の休憩時を利用して、スト一ブの煙突取外し作業を車体検査官3名で行っていたが、作業に難渋している様子が見受けられたので、Kは事務所の南側約2メートルの箇所にある木に登り、煙突を固定している部分をゆるめる作業を手伝った。取外しを終わり、Kは木から下りようとしたところ枝が折れたため転落、負傷し死亡したものである(昭32.9.17基収4722号)。

(平7択)

 

 

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(3) 作業の中断中(認められた事例)

 


トラック助手Tは、運転手Mと引っ越し荷物を積載して疾走中、国道上で故障修理中の他のトラックの乗務員が、Tの車の荷覆シートがめくれている旨を手まねで知らせたので、直ちに停車し、Mとともにシートをかけなおした。そのとき川の堤防上から強風が吹き、Tの防寒帽が国道中央に吹き飛ばされたので、とっさにその帽子を追って走り出した際、前方より疾走してきた乗用車に跳ね飛ばされ、死亡した(昭25.5.8基収1006号)。(平7択)

 

 

(4) 休憩中(認められた事例)

 


被災者Nは、石切り場の職人の手伝いとして働いていた。石切り場は断崖絶壁で、作業場は海面から約25メートルの高さのところにある。Nは同僚中で一番若かったので、夏の暑い時は朝ヤカン一杯の飲料水を持って現場に上り、昼食時には下りて休憩し、仕事にかかるときは再び飲料水をヤカンで持って上っていた。暑い時などは途中で汲みに下りることもあった。当日(9月19日)は、曇っていたので昼まで飲料水は不用であろうと思って発破用の塩水だけを持って上っていたが、9時10分から20分頃休憩になったとき、誰かが「咽喉が渇いたな」といいだしたので、Nはヤカンを持って下へ降りて行き、山の方へ帰りかけた瞬間転落し、後頭部を粉砕して死亡した(昭24.12.28基災収4173号)。(平5択)

 

 

(5) 施設利用中(認められた事例)

 


【事業場施設の具体例】


a) 直接に業務運営の用に供する敷地、建造物、建物附属機械器具、調度品、作業用の設備、機械器具、原材料、製品、自家用車 etc.

 

b) 労働者の利用に供せられる更衣所、便所、洗面所、食堂、風呂場、休憩所、娯楽室、運動設備、通勤専用バスその他の福利施設、医療・看護施設又は事業附属寄宿舎 etc.


c) 事業主の行う健康診断を受ける場合における医療施設

 

 

Fタクシー会社において、当直運転手が、石油ストーブを事務所から仮眠室へ運ぶ途中、ストーブの下部が外れたため、こぼれた油に引火し同営業所は全焼し、その際2階に住み込んでいた同所の管理責任者Aと雑役婦の妻Bが焼死した。発生現場付近にボール箱及び自動車専用モービルオイルが置いてあったこと並びに居合わせた労働者が消火器の操作方法を知らなかったことが大事に至らせたものである(昭41.5.23基収3520号)。(平7択)

 

 

(6) 出張中(認められた事例)

 


F電力(株)T営業所の計画係長Tは、明日午前8時から午後1時までの間に、下請業者の実施するH町の高圧耐塩用CF遮断器取換え作業を指導・監督するため部下1名とともに出張するようにとの命令を受けたので、明日は部下と直接用務地に赴くことを打ち合わせた。翌日、午前7時過ぎ、自転車で自宅を出発し、列車に乗車すべく進行中、踏切で列車に衝突し死亡した。なお、同係長は通常の通勤の場合にも、その列車を使用している(昭34.7.15基収2980号)。(平7択)

 

 

(7) 通勤途上(認められた事例)

 


休日に、鉄道の保線工夫が、自己の担当する鉄道沿線に突然事故があったため、自宅等から使用者の呼出しを受けて現場にかけつける途上は、業務遂行中と解すべきである(昭24.1.19基収3375号)。

 

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(例)無断欠勤者(部下)の事情確認を行うため、慣例的に上司が通勤途上にある欠勤者宅へ赴く途中の交通事故。

 

 

 

 

   ↓ 反対に…

 


(例)内勤職の者が特命(特別の指示)を受けて、通勤途上において職務を遂行する場合は、「出張」のケースと同じく通勤途上も含めて業務遂行性が認められる。

 

 

(例)日雇労働者に対する災害認定の全体図

 

 

 

 

(8) 天災地変(認められた事例)

 


K産業(株)が設置しているA山上ロープウェイ(Y駅からK駅まで約1キロメートル)の補強工事を、K産業(株)従業員と部品製作を請負ったY索道(株)T製作所の従業員と共同で行っていたところ、突如A山第1火口が爆発し、噴石落下によりロープウェイ作業中の労働者10名が死亡した。さらにこの噴火によりY駅近くのMタクシーY営業所運転手1名も死亡した。なお、A山は活火山であって大正12年ごろから約150回の爆発があり、昭和8年、同28年には溶岩の流出、飛来により付近の民家、旅行者に被災を及ぼしたことがあり、今回もY駅周辺のA町料金徴収所、H茶屋等が被害を受けている。またMタクシーY営業所運転手は、同営業所に1名で常駐し10日交替で勤務していたという事情があった(昭33.8.4基収4633号)。(平5択)

 

 

山頂100メートル下方において植生盤の植付作業の指揮監督をしていたH工業(株)の現場監督員Oは、夕立のような異様な天候になったので、作業を中止させ、山頂の休憩小屋に退避しようとして同小屋より約15メートル近くまで来たとき、落雷の直撃をうけ、電撃死した。当地区は、A測候所の調査によると、地理的条件よりみても山岳地帯であって天候の変化もはげしく、雷の発生頻度が高い。さらに、A銅山の煙害により、草木としては、イタドリ(高さ6Oセンチ位の草)位しか生茂しておらず、ほとんど禿山ばかりであって、今回の事故も、このため退避するに適当な場所がなかったことから直撃をうけたものとみられる(昭36.3.13基収1844号)。(平7択)

 

 

(9) 他人の故意(認められた事例)

 


K炭鉱鉱業所の建設部長Bは、鉱員住宅建築作業の指揮監督の責任者で、建築現場の巡回中に、大工Aが作業に手抜きをしていることを発見したので、これを指摘し、Aにやり直しを要求した。この工事の手抜きについては、既に以前にも一度注意を促したことがあり、今回が二度目であったので、厳重に戒告した。しかるに、Aはその非を改めようとしないで反抗的態度で抗弁したので口論となり、Aは不意に手近の建築用の角材を手にしてBに打ってかかった。Bはこれに対し、なんら抵抗しないでその場を逃げたが、あまりひどく打たれたので遂に昏倒した(昭23.9.28基災発167号)。(平5択)

 

 

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(10) その他の事由(認められなかった事例)

 


H酪農協同(株)皮革工場従業員Uは、昼食事の休憩時間に構内で同僚労働者とキャッチボールをしているとき、突然左上膊(ひじ)外側面に疼痛を感じたので、直ちに被服を脱いで調べたところ、左上膊面に穴があき出血して銃丸の盲貫しているのを知った(昭24.5.31基収1410号)。 (平5択)