社労士/労災保険法5-16 | 初級INPUT講座2011年度向けテキスト

社労士合格を目指す受験生を応援!2011年度向けテキストを完全公開!「労災保険法5-16:具体的な調整方法」

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労災保険法(5)-16

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テキスト本文の開始

 

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(2) 具体的な調整方法

 


【労災保険給付における調整】


a) 休業補償給付、傷病補償年金の場合

 

 

b) 障害補償年金、遺族補償年金の場合

 

 

調整対象期間以外の期間については、仮に、事業主からの損害賠償が行われたとしても調整されることはない。

 

↓ つまり…

 

保険給付は行われるということ!

 

 

【民事損害賠償における調整】

 

「猶予期間中」は賠償債務(災害補償の支払義務)の履行期(支払の実行期)にないということであって、損害賠償の責めを当然に免れるわけではない(法附則64条1項1号)。

 

↓ とりあえず…

 

「事業主があわてて賠償しなくてもよい期間」という理解でよい。

 

↓ そして…

 

被災労働者が保険給付を請求すると、事業主からの直接の補償に代わって保険給付が行われるため、それ相当額の事業主の賠償債務が順次消滅していく(法附則64条1項2号)。

 

↓ この時点で…

 

その給付相当額が免責となる!(平9択)
(その給付額を損害発生時の評価額に計算し直した額について賠償責任が免除され、当初履行が予定されていた全額に相当する給付が現実に支給されたとき、賠償債務はなくなる)

 

 

条文

 

 

労働者又はその遺族が、当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から損害賠償を受けることができる場合であって、保険給付を受けるべきときに、同一の事由について、損害賠償(当該保険給付によっててん補される損害をてん補する部分に限る)を受けたとき*1は、政府は、労働政策審議会の議を経て厚生労働大臣が定める基準*2により、その価額の限度で、保険給付をしないことができる。 (平14択)(平18択)(平20択)

 

 

 

ちょっとアドバイス

 

□*1 支給調整を行う際に労災保険給付との比較の対象とされる民事損害賠償の額は、受給権者本人の受けた民事損害賠償に係るものに限られる。(平5択)

 

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□*2 「厚生労働大臣が定める基準」による調整内容は、次のとおりである(平5.3.26基発29号、平8.3.1基発95号)。

 


支給調整を行う労災保険給付

 

 

支給調整を行わない労災保険給付等

 

a) 療養(補償)給付

 

b) 休業(補償)給付

 

c) 傷病(補償)年金

 

d) 障害(補償)給付

 

e) 遺族(補償)給付

 

f) 介護(補償)給付(平10択)

 

g) 葬祭料(葬祭給付)(平

9択)

 

a) 前払一時金給付

 

b) 前払一時金給付の最高限度額相当額に達するまでの間についての年金給付

 

c) 障害(補償)年金差額一時金

 

d) 遺族(補償)年金失権後の不足調整として生ずる遺族(補償)一時金

 

e) 先順位者が失権した後の後順位者に対する遺族(補償)年金(平9択)

 

f) 損害項目に対応する保険給付が存しない見舞金、慰謝料等(平5択)

 

↓ なお…

 

□調整対象給付期間(労災保険給付の支給調整が行われる期間)は、具体的には、次のイ、ロのうち、いずれか短い期間とされる。(平5択) (平9択)

 


イ) 前払一時金(障害及び遺族)の最高限度額相当期間の終了する月から起算して9年が経過するまでの期間

 

↓ ただし…

 

休業(補償)給付:災害発生日から起算して9年が経過するまでの期間
傷病(補償)年金:支給事由の発生した月の翌月から起算して9年が経過するまでの期間

 

 

ロ) 就労可能年齢(67歳(15歳で被災した場合)を基準として年齢ごとに定められている)を超えるに至ったときは、その超えるに至ったときまでの期間

 

↓ なお…

 

遺族(補償)年金:死亡労働者を生存と仮定した場合の就労可能年齢

 

↓ また…

 

□その他の「金銭補償」との調整は、次のとおりである(昭56.6.12発基60号)。

 


【企業内災害補償】(平14択) (平18択) (平20択)

一般的には、労災保険給付に上積みして給付する性質のものであるから、その制度を定めた労働協約、就業規則その他の規定の文面上労災保険給付相当分を含むことが明らかである場合を除き、労災保険給付の支給調整は行われない(企業内災害補償の内容が労災保険給付と重複する損害てん補の性質を有することが明らかである場合には、支給調整が行われる)。

 

 

【示談金及び和解金】(平5択)

労災保険給付が将来にわたって支給されることを前提として、これに上積みして支払われるものである場合には、労災保険給付の支給調整は行われない。

 

 

【見舞金】

単なる見舞金等民事損害賠償の性質を有しないものは、労災保険給付の支給調整は行われない。

 

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3  事業主による民事損害賠償-2 (事業主側・法附則64条1項)  重要度 ●   

 

条文

 

 

労働者又はその遺族が障害(補償)年金若しくは遺族(補償)年金(以下「年金給付」という)を受けるべき場合(当該年金給付を受ける権利を有することとなった時に、当該年金給付に係る障害(補償)年金前払一時金若しくは遺族(補償)年金前払一時金(以下「前払一時金給付」という)を請求することができる場合に限る*1)であって、同一の事由について、当該労働者を使用している事業主又は使用していた事業主から民法その他の法律による損害賠償(以下「損害賠償」といい、当該年金給付によっててん補される損害をてん補する部分に限る)を受けることができるときは、当該損害賠償については、当分の間、次に定めるところによるものとする。

 

イ) 事業主は、当該労働者又はその遺族の年金給付を受ける権利が消滅するまでの間、その損害の発生時から当該年金給付に係る前払一時金給付を受けるべき時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該前払一時金給付の最高限度額に相当する額となるべき額(ロの規定により損害賠償の責めを免れたときは、その免れた額を控除した額)の限度で、その損害賠償の履行をしないことができる*2。

 

ロ) イの規定により損害賠償の履行が猶予されている場合において、年金給付又は前払一時金給付の支給が行われたときは、事業主は、その損害の発生時から当該支給が行われた時までの法定利率により計算される額を合算した場合における当該合算した額が当該年金給付又は前払一時金給付の額となるべき額の限度で、その損害賠償の責めを免れる。

 

 

 

ちょっとアドバイス

 

□*1 「前払一時金給付を請求することができる場合に限る」とは、例えば、遺族(補償)年金について、先順位者が前払一時金を受けて失権した後の後順位者は前払一時金請求ができないため、調整規定は適用されないということである。(平8択) (平9択)

 

↓ なお…

 

□損害賠償を請求し、その賠償額を算定する時点において、前払一時金請求の権利行使期間が徒過したことによって当該請求をすることができない場合であっても、時効により前払一時金請求をすることができないだけであるときは、「年金給付の受給権を有することとなったときに前払一時金を請求することができる場合」に該当し、調整規定が適用される。(平9択)

 

 

advance

 

□*2 履行の猶予が行われるのは、事業主側がこの権利の行使を主張した場合に限られる。

 

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◆具体的な算定方法

 


イ) 履行の猶予

 

【履行猶予額】=前払一時金の最高限度額-損害発生時から前払一時金を受けるべき時までの法定利率(年5分)により計算される額

 

 

ロ) 免責

 

【免責限度額】=年金給付又は前払一時金の支給額-損害発生時から当該年金給付又は前払一時金の支給が行われた時までの法定利率(年5分)により計算される額

 

↓ なお…

 

*試験対策上は、この算定方法を修得する必要はなく、損害発生時の評価額に計算し直した額について賠償責任が免除されることが理解できればよい。